はじめに
結婚生活を送るにあたり、経済的な価値観がある程度一致していることや、将来のことを考えて持続可能な消費生活を送れることは重要な要素と言えます。妻または夫の浪費癖がひどい場合、離婚を考えることもあるでしょう。
そういった配偶者の浪費癖を理由に離婚することが出来るのか、離婚することが出来るとしても財産分与や借金の返済について注意するべき点はあるのか解説していきます。
相手が離婚に応じてくれない場合
浪費癖や借金癖のある夫または妻に「離婚したい」と言っても合意が得られず離婚届を提出できない場合、協議離婚は成立しません。
このような場合、まずは家庭裁判所で離婚調停を行う必要があります。調停で相手が離婚に納得すれば、財産分与や子どもの親権などの条件を取り決めて離婚できます。
調停でも相手が離婚を拒絶する場合には、離婚訴訟によって強制的に離婚をさせてもらうしかありません。
離婚訴訟で離婚が認められるには法定離婚事由が必要です。法定離婚事由とは、法律の定める離婚原因のことで、以下のものになります。
①不貞行為
②悪意の遺棄
③三年以上の生死不明
④強度の精神病に罹り回復の見込みがないこと
⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があること
の5つです(民法770条1項)。⑤について、抽象的な定め方になっており、判例によって長期間の別居やDVなどが含まれるとされています。
「借金」や「浪費」「金銭感覚のずれ」があるだけでは法定離婚事由になりません。浪費が離婚原因として認められるには、例えば配偶者が収入を全てギャンブルやショッピングに費やし生活費をくれないような場合や、夫(妻)がギャンブルに浪費して会社に行かない、仕事をしないといったレベルのものであることが必要です。こういった場合には、③悪意の遺棄といえる余地が出てくるためです。
また、浪費のことを指摘すると、激しく暴言や暴力を振るわれる、責められて精神的に追い詰められるという事情がある場合、それがDVやモラハラに当たるとして、⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとみられる可能性もあります。
このような事情がある場合には、離婚訴訟で強制的に離婚することも可能になってきます。
夫(妻)が勝手に作った借金の返済義務はあるか
夫や妻が借金したとき、その返済義務は他方の配偶者にも及ぶ場合とおよばない場合の両方があります。
まず、食料品や日用品などの生活必需品を買うための借金・クレジットカードの利用等は、「日常家事債務」といわれ、民法の規定により夫婦の連帯責任となります。つまり、生活費として借り入れた負債は、配偶者にも支払い義務が発生します。
それ以外の個人的な借金や1人で浪費・遊ぶための借金については、夫婦の連帯責任にはなりません。
たとえば夫が個人で行っている事業で運転資金を借りた場合や、1人でパチンコやぜいたく品を購入するために浪費したお金について、妻が支払いをする必要はありません。このことは、離婚後も同じなので、このような借金については「離婚しても夫のカードの支払い義務が及ぶかも」などと心配する必要はありません。
なお、夫または妻が配偶者名義のカードを使って借り入れをした場合、カード会社に返済義務を負うのは名義人ですので、配偶者は返済義務を免れることはできません。
浪費癖の夫(妻)と離婚する際の財産分与について
財産分与は、結婚生活においてためた共有財産を夫婦が分け合う手続きです。
浪費癖のある夫や妻と離婚する際の財産分与ですが、この場合も原則としては夫婦の財産を半分ずつに分けます。
しかし、夫や妻の浪費を理由に家計が圧迫され、預貯金や保険などの共有財産が減ってしまっていたら、相手に渡す財産分与を減らすことが出来る場合もあります。ただし浪費した事実を証明し、どのくらい浪費されたのか金額がはっきりと分からないと考慮はされません。
財産分与を有利に進めるには、浪費された金額のほかに、夫婦それぞれの名義の預貯金、生命保険、有価証券などについて的確な証拠を集めて提示する必要があります。
なお借金は基本的に財産分与の対象にならないので、離婚の際に相手のカードなどの個人的な借金を半分背負わされることもありません。
その他の離婚条件に与える影響
①慰謝料について
夫または妻に浪費癖があったとしても、それだけで慰謝料が請求できるものではありません。浪費癖に加えて、不倫や暴力、悪意の遺棄といったほかの要素と合わさっている場合には、慰謝料請求ができます
②親権・養育費
浪費癖があることが直ちに親権の獲得に不利になったり、養育費の額を左右したりすることもありません。
親権は、子の福祉の観点から養育に適しているか否かで判断されるものですので、浪費癖があるだけではなく、遊びまわって育児放棄をしている等プラスアルファの事情が必要になります。
まとめ
相手に浪費癖がある場合、離婚や離婚条件にもいろいろな考慮するべき点が出てきて一筋縄ではいかないこともあります。そのような場合には、1人で悩まずに弁護士にご相談頂くことをお勧めします。