はじめに
離婚時に取り決めなければならない条件のうち、財産や金銭に関するものは離婚後の生活に大きな影響を与えるものです。そのなかでも、財産分与や慰謝料のように原則として一括の支払ではなく、定期的な支払いを受けるものが、婚姻費用と養育費です。
養育費は、未成年の子供がいる場合に、その子が成人するまで(または大学を卒業する年齢に達するまで)、毎月定額を支払われるものです。
婚姻費用のほうは、あまり耳にしたことのない方もいるかと思いますが、別居後、離婚が成立するまでの間の生活費の分担として、夫婦のうち子の養育をしていたり所得が少なかったりする側が、そうでない側から毎月定額で支払いを受けるものです。
以下では、これらの具体的な違いや、取り決め方などを説明していきます。
婚姻費用とは
婚姻費用とは、夫婦とその未成年の子が生活する上で必要となる全ての費用を指します。例えば、食費・医療費・教育費・通信費や娯楽費なども相当な範囲で含まれます。
別居の際に夫婦の収入の多い側が妻又は夫に支払うべき婚姻費用は、妻又は夫と子供の生活費を一部分担するものということになります。夫婦お互いの収入によって支払われるべき金額というのは千差万別ですが、家庭裁判所では、婚姻費用算定表というものを基準として定めており、概ねその基準に則って決められます。
婚姻費用算定表は、インターネット上で公表されていますので、ご自身でみられる際の注意点を説明します。
まず、子の数によって適用される表が異なりますので、あてはまる表を選んでください。表は、縦軸に義務者(婚姻費用を支払う側)、横軸に権利者(婚姻費用を受け取る側)の年収となっており、表の中でその交わるところが相当な婚姻費用となります。例えば、現在の別居に適用される表(令和元年12月23日発表)の婚姻費用・子1人表(0~14歳)で、夫は給与で年収500万円、妻が給与で年収250万円で子を連れて別居している場合には、夫が妻に支払う婚姻費用は概ね6~8万円の範囲ということになります。
また、婚姻費用は、相手方に請求を行った時から相手方に支払いの義務が生じますので、別居後しばらくしてから婚姻費用の請求をしても、別居時までさかのぼって支払わせることはできません。そのため、忘れずに請求をしていくことが大切になります。
養育費とは
養育費とは、子どもの監護(世話)や教育などのために必要な費用のことをいいます。一般的には,子どもが経済的・社会的に自立するまでに要する生活費を意味し、衣食住に必要な経費、教育費、医療費などがこれに当たります。
離婚した際には、子供を監護する側の夫婦の一方が、相手方より受け取ることになります。離婚してたとえ親権が無かったとしても、子供との関係では親であることに変わりがないからです。
婚姻費用と同様に、夫婦の収入や生活水準によって支払われる金額は異なってきますが、家庭裁判所では、養育費算定表を基準として定めており、概ねその範囲で決められます。
養育費算定表も、婚姻費用算定表と同様にインターネット上で公表されており、子の数によって適用される表が分かれている点、縦軸に義務者(払う側)の年収、横軸に権利者(受け取る側)の年収があり、表の中で交わるところが相当な養育費となっている点は同じです。
婚姻費用の説明のところであげた例と同じ設定の夫婦(14歳以下の子1人。夫は給与で年収500万円、妻が給与で年収250万円。)では、夫が妻側に支払う養育費は概ね4~6万円の範囲ということになります。
婚姻費用と養育費の違い
婚姻費用と養育費の違いとしては、婚姻費用が離婚に至るまでの別居中に、別居家族の生活費を分担するために支払われるものであるのに対し、養育費は、離婚後に子どもの生活費を子どもが自立するまでの間、一部負担するというものです。
つまり、支払われる時期について、婚姻費用は離婚まで、養育費は離婚後・子が自立するまでの間であることと、支払われる金額について、婚姻費用は子だけでなく妻の生活費等も含むのに対して、養育費は子の生活費等のみであることに違いがあります。
婚姻費用算定表・養育費算定表の改訂
婚姻費用・養育費については、以前からその水準が低すぎて母子家庭の貧困という社会問題を生じさせていました。そこで、令和元年12月に婚姻費用算定表・養育費算定表ともに改訂版が発表され、以前の算定表よりもやや高い金額が算定できるようになりました。
まとめ
婚姻費用も養育費も、離婚に当たって継続的に生じる金銭給付ですが、様々な違いがあります。いずれも経済的に弱い側にとって別居後・離婚後の生活の助けになるものであり、支払いの義務を負う側にとっても適正な金額を支払うことがその後の手続きや離婚後の関係に影響する重要な問題です。
婚姻費用や養育費でお悩みの方は、お気軽に弁護士にご相談ください。