目次
はじめに
離婚を考え始めたら、離婚に先立って別居するという選択肢があります。特に離婚すること自体や、離婚をするとしてもその条件についてお互いの考えが折り合わないときは離婚の話が長期化しますし、一緒に暮らしていることが大きなストレスになると思います。
そのようなときには、別居をすることで離婚したいという意思を明確に示し、またお互い距離を置くことで冷静に話ができるようになることも期待できます。
しかし、何の準備もなく別居を始めてしまうと、後々困ったことになる恐れがあります。事前に知るべきことを知り、準備をしてから別居をすることが、後の離婚についての協議や調停・訴訟を円滑に進めることにつながります。
別居する前に知っておくべきこと
(1)離婚についての基礎知識
離婚するにあたって、そもそも自分のケースで離婚できるのかどうか、また離婚できるとしてもどのような条件を決めなければならないのか、知っておく必要があります。
離婚できるのかどうかという点では、相手が離婚に同意してくれれば問題ありませんが、離婚に同意してくれない場合には法律上の離婚原因があるかどうかが重要になってきます。具体的には、民法に列挙されている①不貞行為、②悪意の遺棄、③三年以上の生死不明、④強度の精神病に罹り回復の見込みがないこと、⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があること、といった事情のどれかがあれば、仮に相手方が離婚を拒否し続けても裁判に持ち込んで離婚をすることが出来るでしょう。
離婚に当たって決めなければならない条件とは、親権者、慰謝料の有無・額、財産分与、養育費、面接交渉、年金分割などがあり、これらについて、相手と取り決めをしなければなりません。
こういった基礎知識を知ったうえで、離婚についての見通しを立ててから別居に踏み切るのが望ましいです。
(2)その後の手続き
離婚に向けての手続きがどのようなものか、知っておくことも重要です。一般的には、まず当事者間で協議を行い、それで話がつかなければ、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることになります。調停でも話し合いがつかず離婚ができない場合、離婚調停としては不成立になりますが、その後に離婚訴訟を起こすことが出来るようになります。離婚訴訟の中で、お互いに譲歩があって裁判上の和解の形で離婚することもありますが、最後まで話し合いがまとまらなければ、離婚を認める又は認めないという判決が下されます。
(3)子への配慮、親権への影響
夫婦が別居することは、その間の子どもにとって、生活環境が変わることを意味します。今まで住んでいた家を出ていく側の親についていくときは、最も生活状況の変化が大きいですが、そうでない場合にも今まで当たり前にいた親の片方がいなくなるので、未成熟の子どもには大きな影響があります。子どもの学校その他の生活に影響が出ないか、精神的に受けたショックは無いかに十分配慮しながら別居を計画することが必要です。
また、子供と別居すると、子供の親権を争うときに不利になります。子供は、できるだけ生活環境が変わらない方がいいという考え方があるため、同居している親との暮らしに問題がなければ、そのまま同居している親が離婚後も親権を持つのが好ましいと考えられているからです。
子供の親権を取りたい場合は、別居の際に子供を連れていくようにしましょう。
(4)婚姻費用
別居していても、夫婦には相互に扶助義務があります。そのため、生活費は、別居中も夫婦で分担する必要があるのです。具体的には、夫婦のそれぞれの収入などに応じて、婚姻費用を請求することができます。別居に当たっては、このことを知っておかなければなりません。
別居する場合には、婚姻費用の金額や支払い方法などをあらかじめ話し合っておくのが理想です。そこまで話が出来なかったとしても、別居後に速やかに婚姻費用の請求を行うことが必要です。具体的な金額は、裁判所が公表している婚姻費用算定表が目安になります。
(5)経済的に自立しなければならないこと
これまでの家計が夫婦の一方の収入に依存しているとき、典型的には夫の収入に依存していた妻の場合ですが、この場合の妻側が夫から支払われる婚姻費用だけで別居後も今までと同じ生活水準を維持するのは難しいです。たとえそれなりの金額の婚姻費用が払われたとしても、家を借りるなどした場合には生活費が増大するからです。
金銭面については、事前にしっかりシミュレーションしておくことが大切です。別居に踏み切る前に仕事を確保しておく、子供を預ける保育所を探しておくといった準備をしておくことが大切です。実家を頼ることができるのであれば、実家に住まわせてもらうことも検討しましょう。
別居する前にやっておきたいこと
(1)離婚に必要な証拠の収集
離婚の際には、財産分与や養育費の金額などについて揉めることも多いです。
財産分与についての備えとして、夫婦の財産状況を改めて確認し、その資料をそろえておきましょう。こちら名義の通帳や保険証券などは当然として、相手の名義の通帳や保険証券、証券会社からの報告書などもできるだけコピーをしてそろえておきましょう。
養育費・婚姻費用については、お互いの収入の金額によって決めますので、源泉徴収票や確定申告書、給与明細は、相手の分もコピーをして持っておきたいところです。
また、相手が不貞行為をした場合に、不貞行為の事実を示す証拠や相手に不利となる証拠なども別居前に集めておいた方がよいでしょう。
(2)離婚したい意思を相手に告げる
別居する前に離婚したいという意思を相手に伝えておくということも必要です。ほとんどの場合、離婚はお互いが合意することによって成立します。合意の前提としては、相手としっかり話をするということも必要となってきます。その場で結論が出なくとも、相手が離婚に対してどういう姿勢か知ることが出来ます。
もちろん、DVがある場合など、そのような話を当事者ですることが適切でない場合もあります。そのような場合は、まず別居して、弁護士を付けたり調停を申し立てたりすることになります。
(3)離婚届不受理申出
離婚についての話し合いがまとまっていないのに、別居した配偶者が勝手に離婚届を出してしまう可能性もあります。離婚自体には合意していても、まだ条件がまとまっていない場合など、勝手に離婚届を出されて受理されてしまうと、それを翻すのは非常に手間がかかります。
相手が勝手に離婚届けを出しそうな懸念がある場合は、念のため、役所に離婚届不受理の申し出をしておくと安心です。
まとめ
別居は、離婚を希望している側にとって、離婚に向けた本気度を示し、話し合いを冷静に進めるために有効な手段です。
しかし、不用意に別居に踏み切ることも避けるべきです。別居に向けて不安が解消されないという場合は、弁護士までお気軽にご相談ください。