目次
はじめに
子どもがいる夫婦が離婚する際に話し合うことが避けて通れないのが養育費の問題です。
離婚後も子どもが生活していくのに困らないように、子どもの養育にかかる費用負担を子どもと別れて暮らす親に担ってもらうもので、子どもの将来のためにきっちりと決めておく必要があります。
養育費を決めるにあたっては、①養育費はいつまでもらえるのか、②養育費はいくらもらえるのか、ということが要点になりますし、払う側・もらう側の双方にとっても気になるところだと思います。
以下ではこれらの点を順番に述べていきたいと思います。
養育費はいつまでもらえる
まず、いつまで養育費を支払ってもらえるのか、確認しましょう。
養育費とは、未成熟の子どもを実際に監護養育するときにはいろいろとお金がかかるので、そういったお金を未成熟の子どもの監護をしていない親が監護をしている親に支払うという性質のものです。
そして、未成熟の子どもとは、原則として20歳未満の子とされています。そのため、養育費が支払われるのは、子どもが20歳になるまでの間です。
これは、一般的には、子どもが20歳に達する頃には自立して生計を立てられるようになっていることが多いため、そのような場合にはもはや親による扶養は不要であるという考え方に基づいています。
他方で、子どもが20歳に達するまでに就職し、経済的に自立している場合には、子どもが20歳未満であっても親による養育は不要だと判断され、養育費の支払いが不要となる場合もあります。
成年年齢の引き下げによって支払期間も18歳までに変わる?
「民法の一部を改正する法律」が施行されたことにより、令和4年(2022年)4月1日から成年年齢が18歳に引き下げられました。しかし、これにより養育費の支払期間が、当然に18歳までとなるわけではありません。
子どもが成年年齢である18歳に達したとしても、経済的に自立できていない場合は未成熟の子どもであることに変わりはないため、養育費の支払い義務が生じることになります。
なお、改正法の施行前に、『養育費を成年に達するまで支払う』と合意書や公正証書で取り決めをしていた場合は、取り決めをした当時は20歳を想定していたことは明らかなので、20歳まで養育費は支払われるべきです。
一方で、これから新たに養育費の取り決めを行う場合は、子どもが何歳になるまで養育費を支払ってもらうのか、明確に定めておくことをおすすめします。
子どもが20歳を超えても受け取れるケース
では、子どもが20歳になると、それ以後は一切養育費をもらうことができないのでしょうか。
最近では、大学や大学院、専門学校などに進学する人が増えており、20歳を超えても子どもが経済的に自立できないケースが多いといえます。
大学進学などの事情がある場合には、夫婦間での話し合いにより、子どもの年齢が20歳を超えても養育費を支払うという定めをすることができます。
たとえば、協議離婚するときに「子どもが大学に進学する場合には、大学を卒業する月まで養育費を支払う」という取り決めをすることもできますし、「子どもが22歳に達した後に到来する3月末日までを養育費の支払期間とする」ことも可能です。
「卒業」ではなく「22歳に達した後に到来する3月末日」までとするのは、子どもが浪人や留年した場合には、その分は面倒を見られないという意味合いです。
養育費を受け取る側が再婚したら支払ってもらえない?
養育費の支払期間に関して、「養育費を受け取っている側が再婚したら、養育費をもらえなくなるのか?」と心配される方が多くいらっしゃいます。
結論から言うと、再婚しても養育費の支払義務は消滅しません。
離婚時の年齢が若い夫婦の場合、再婚の可能性も高いでしょう。
まず、養育費を支払う側や受け取る側が再婚しても、父母と子どもとの関係がなくなるわけではないので、養育費支払い義務は消滅しません。
養育費を受け取っている側(たとえば母親)が再婚したときに、子どもと再婚相手との「養子縁組」をすることあります。
養子縁組により、子どもには父親が2人いる状態となりますが、このとき、子どもと一緒に暮らしている養親は、非監護親である実親よりも、扶養義務の優先度が高くなります。
そこで、再婚時に子どもと再婚相手を養子縁組した場合、再婚相手に子どもを扶養できるだけの収入や資力があれば、非監護親である実親の養育費を減額するべきだと判断されたり、負担する必要はないと判断されたりすることがあります。
養育費の金額の相場
次に養育費を「いくらにすれば良いか」について見ていきます。
養育費の金額は、養育費の支払う側と受け取る側のそれぞれの収入状況によって異なります。 支払う側の収入が高ければ養育の金額が上がり、低ければ下がりますし、受け取る側の収入も高ければ養育費の金額は下がり、低ければ上がります。
詳しい計算方法はありますが、実務では「養育費算定表」を用いて相場を把握しています。
「養育費算定表」とは、裁判所の研究会が作成したもので、一般に公開されています。以下のリンクから参照してみてください。
養育費の算定表はこちら
養育費の算定表とは、子どもの人数と年齢に応じて分けられており、該当する算定表を見て、その中で夫婦の収入状況を当てはめて養育費の目安を定めた表です。弁護士による協議離婚に向けての交渉や家庭裁判所での調停や裁判でも、この養育費の算定表を利用します。
こういった相場の金額を調べた上で、自分たちで話し合いをして、その範囲内で具体的な養育費の金額を決定することとなります。
協議離婚の場合、養育費をしっかり受け取るためには公正証書を作成する
養育費の金額や、いつまで支払いをするかという支払い条件について取り決めをしても、その後支払いを受けられなくなってしまっては意味がありません。
調停や訴訟により養育費の金額が決められた場合は、調停調書(調停の場合)、和解調書(訴訟になってから和解した場合)、判決謄本(訴訟になって判決までいった場合)といった公文書に養育費の金額・支払期間などの内容が記載され、支払いがなかった場合には差押えをすることも可能となっています。
しかしながら、協議離婚の場合には、このような公文書は当然にはありませんし、極端な話、約束を文書に一切しなくても離婚届だけ書いて離婚することができます。それでは、支払いがなかった場合にどうすることもできません。
協議離婚でも養育費の不払いを防ぐためには、養育費をはじめとした離婚条件の取り決めを「公正証書」にしておくことが重要です。
公正証書にして執行受諾文言(払わなかったときは差抑えを受けても異議はないという文言)を入れておけば、相手が養育費の不払いをしたときに、すぐに相手の預貯金や生命保険、給料等を差し押さえることができるからです。給料を一度差し押さえたら、相手が仕事を辞めない限り、延々と、毎月支払いを受け続けることができますし、ボーナスも差し押さえ対象となるのでとても効果的です。
まとめ
養育費の①支払期間と②金額の相場は以上のような形になっています。これらを参考に、それぞれの家庭の形に応じて養育費について取り決めをしてください。
協議がまとまって調停までしなくて済む場合にも、養育費を確実に支払ってもらうためには、離婚時に養育費の支払期間や金額を取り決めて、公正証書にしておくことが重要です。
具体的な養育費の内容・条件や公正証書の作成について迷われたら、弁護士に相談することをお勧めします。